近頃河原の達引

2014年1月10日更新

 

『近頃河原の達引』 ちかごろ かわらのたてひき 世話物

四条河原の段・堀川猿廻しの段

 

○ 主な登場人物

 

与次郎   京の都は堀川に住む猿廻し

お俊    祇園の遊女で与次郎の妹

伝兵衛   お俊の愛人

 

○ あらすじ

 

井筒屋の子息・伝兵衛は祇園の遊女お俊(しゅん)と深い仲、身請けの話もまとまっていた。ところが、お俊に横恋慕する悪侍・横淵官左衛門(よこぶち・かんざえもん)は、悪仲間と共に伝兵衛から金三百両を奪い取り、両者は四条河原で達引、つまり喧嘩沙汰となる。そして伝兵衛は思わず官左衛門を斬り、お尋ね者になってしまった。

逃亡犯の伝兵衛と接触しないよう、お俊は祇園の店から堀川の実家に預けられている。そこにはお俊の母と猿廻しで生活を支える兄の与次郎が暮らし、与次郎は決して楽でない日々の中、母に孝養を尽くしていた。

ある晩のこと、伝兵衛がそっと訪ねてくる。兄の与次郎は驚いた。何しろ相手は人殺しの逃亡犯だ。やぶれかぶれになって妹のお俊を殺しに来たのかも知れない。「で、で、伝兵衛だ!」与次郎の震えは止まらない。しかし、どうにか心を落ち着かせ、伝兵衛が来たら渡す手筈になっていた退状(のきじょう)、妹に書かせた別れの手紙を伝兵衛に差し出す。ところが、それは別れの手紙でなく、母や兄に自害の覚悟を知らせる、お俊の書き置きだった。

お俊は伝兵衛が来たら一緒に死にたいと思っていた。しかし伝兵衛は、お俊を巻き添えにするつもりはなく、母や兄と暮らして欲しいと頼むと、お俊は「そりゃ聞こえませぬ伝兵衛さん・・・」、あなたが苦しんで死のうとしている時に、それを見捨てる・・・。私がそんなに薄情な女と思っているのですかと訴え、そのお俊の真実の心を知った母と兄は、お俊と伝兵衛が一緒に出て行くことを許す。

このあと二人が心中することは分かっていた。それを知りながら見送る痛ましい別れ・・・。しかしそれを兄の与次郎は、めでたい猿回しで見送った。

 

○ ここを観て・・・聴いて・・・

 

この猿回しの段には悪人が一人も出てこない。みな善人だ。しかしそれが運命のいたずらで、思わぬ悲劇に巻き込まれてゆく。お俊の有名なクドキ、「そりゃ聞こえませぬ伝兵衛さん・・・」。このあとに泣かせる文句がある。「人の落目を見捨てるを、廓(さと)の恥辱とするわいなあ・・・」。とかく色里という所は、金の切れ目が縁の切れ目と言われるように、誠の恋などある訳がないと考えがち。しかしここでは誠実な“恋の理論”が語られている。だからこそ、死ぬことは判っていながら、母と兄はお俊を送り出してやるのだった。

 

○ 痛快!猿廻しの三味線テク

 

段切りを飾るのはタイトルにもある与次郎の猿廻し。一見、華やかな場面だが目を転じると、うつむき加減の二人、お俊と伝兵衛が並んでいる。「二人はこのあと心中するのか・・・」と思うと、哀れでならない。

猿回しの演奏は、ツレ弾きが入って三味線が二人になる。ここは十分間ほどを、ほぼ三味線のみで聞かせる。太夫の語りが無い分、三味線の音を存分に楽しむことができ、そこでは義太夫節・太棹三味線の様々なテクニックが駆使される。                           ( 了 )


なまえ
高木 秀樹   たかぎ・ひでき
文楽研究家。
文楽、歌舞伎の同時解説放送、イヤホンガイド解説者。
日本舞踊や歌舞伎公演などの制作にも携わる。NHK教育テレビ「文楽鑑賞入門」講師。歌舞伎・文楽の劇場中継、副音声解説担当。


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