「伊賀越道中双六」の魅力 「岡崎」を中心に⑬
2013年12月6日更新
2013年9月29日 犬丸治 FBより転載。
国立小劇場・文楽「伊賀越道中双六」第八「岡崎」。
近松半二の理想主義と、政右衛門の巳之助殺しという究極
幸兵衛は、庄太郎(政右衛門)の「丈夫な魂」を見届けた
政右衛門は、ここで股五郎を生け捕りにしてと待ち構える
「ヤアこなたは」「こなたは」。義兄弟は意外な展開に言
ここで幸兵衛むんずと居直り、「唐木政右衛門、和田志津
幸兵衛は、娘お袖の縁談のとき、股五郎には直接会ってい
しかし「わが弟子の庄太郎が政右衛門ということを知つた
幸兵衛には「鬼一」という気骨ある険しい老人の首(かし
幸兵衛は股五郎個人に何の恩義もないのですが、城五郎経
これは「沼津」の十兵衛も同じですね。十兵衛が父平作に
この時代に生きた人たちは、みな見えざる義理の糸のしが
「悪人に与してくれと頼むに引かれず、現在わが子をひと
その志に感じ入り、敵の肩持つ片意地も、もはやこれ限り
町人も侍も、変らぬものは子の可愛さ、こなたは男の諦め
巳之助の犠牲が一徹な老人の義理をすてさせ、もとの百姓
股五郎が行家を殺さなければ、いずれ政右衛門とお谷は勘
その「ままならぬ世」だからこそ、「義」は貫かねばなら
さて、幸兵衛が見咎めた、政右衛門に「一滴浮かぶ涙の色
豊竹山城少掾は、
①「その片割れのこの小倅、血祭に刺し殺したが頼まれた
②「死骸を庭へ投げ捨てたり」の「投げ」の語尾を「ゲエ
③幸兵衛の「大事な人質なぜ殺した」から「ム、ハヽヽヽ
以上三つのやり方を適宜使い分けている、といいます。
聞き過ごしてしまいそうな細部にまで、演じる者の魂が宿

- 犬丸 治 いぬまる・おさむ
-
演劇評論家
1959年東京生れ。慶應義塾経済学部卒。
「テアトロ」「読売新聞」に歌舞伎評掲載。歌舞伎学会運営委員。著書「市川海老蔵」「歌舞伎と天皇 『菅原伝授手習鑑』精読」(いずれも岩波現代文庫)ほか。