「伊賀越道中双六」の魅力 「岡崎」を中心に⑨
2013年11月25日更新
2013年9月25日 犬丸治FBより転載。
国立小劇場・文楽「伊賀越道中双六」第八「岡崎」。
お谷(右)が癪に苦しみながらの悲痛な述懐のあと「癪と
同じ経験を、私は豊竹山城少掾・四代目鶴澤清六の「岡崎
ようやく気がついたお谷に政右衛門(左)が呼びかける一
「かァなァらァずゥ…、しーぬーるーなぁああああっ!!
これは、もはや浄瑠璃とか大夫の声などという生半可なも
さかのぼると、癪で気絶したお谷を見かねた幸兵衛女房が
老母は仕方なく、乳を探って不憫な、お谷が抱いた赤子だ
政右衛門は
「奥口見廻し差し足し、勝手は見置く釜の前、付木の明り
「『お谷、お谷やあい』と言うも憚りて、心の内で呼び生
政右衛門はお谷を「女房」と呼んでいますね。
ままならぬ世のならいで、やむなく二人は離縁しましたが
ここに「世のならい」という封建的擬制を超えた、ひとり
「コリヤなんにも言うな。敵の在所手ががりに取り付いた
この屋の内へ身共が本名、けぶらいでも知らされぬ大事の
吉左右を知らすまで気をしつかりと張り詰めて、必ず死ぬ
「コリャなんにも言うな」からは、一息で言ういわゆる「
そして、この「必ず死ぬるな」は、妻子が外で凍死しよう
平凡なコトバのようですが、平凡は作者・演者の手腕でい

- 犬丸 治 いぬまる・おさむ
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演劇評論家
1959年東京生れ。慶應義塾経済学部卒。
「テアトロ」「読売新聞」に歌舞伎評掲載。歌舞伎学会運営委員。著書「市川海老蔵」「歌舞伎と天皇 『菅原伝授手習鑑』精読」(いずれも岩波現代文庫)ほか。