「伊賀越道中双六」の魅力 「岡崎」を中心に④
2013年11月11日更新
2013年9月20日 犬丸治FBより
実説の荒木又右衛門らは、渡辺数馬とともに艱難辛苦伊賀
それを「道中双六」、つまり「旅」に見立てたところに、
「知るも知らぬも逢坂の関」という蝉丸の歌や「奥の細道
私も経験がありますが、旅先で、普通でも滅多に会わない
永い事はなれ離れになっていた親子兄妹が、残酷なかたち
岡崎の町外れ、雪のちらつく夜中、関役人を勤める半士半
「岡崎の段」と一口に言っても、二時間強の全曲は「中」
最近はさらに「中」「切」をそれぞれ二人に語らせていて
「中」の出だしは、
「急ぎ行く。世の中の、苦は色かゆる松風の、音も淋しき
この「霰交じりに」で、まだ無人の舞台に語りと三味線で
ここで一転、奥で糸車を使う幸兵衛女房が唄っている歌に
「いとし殿御を三河の沢よ、恋の掛け橋杜若、更けて忍ば
この作では、このあともこの鄙びた女房の歌が重要な役割
「鄙も都も小娘の、誰が教えねど恋草を、見初め惚れ初め
という訳で、ここを通称「相合傘」というのです。

- 犬丸 治 いぬまる・おさむ
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演劇評論家
1959年東京生れ。慶應義塾経済学部卒。
「テアトロ」「読売新聞」に歌舞伎評掲載。歌舞伎学会運営委員。著書「市川海老蔵」「歌舞伎と天皇 『菅原伝授手習鑑』精読」(いずれも岩波現代文庫)ほか。