新・玉男襲名に寄せて

2015年3月24日更新

 

吉田玉女が、まさに「満を持して」師の名跡「吉田玉男」の二代目を襲名する。

玉女から玉男へ。師が「早く男になるように」とつけた芸名の由来ともども、洒落のようだが、文楽人形の立役を支える「男」としての、彼の時代がやってきたことを意味する。

 

襲名狂言「熊谷陣屋」の熊谷、「時雨炬燵」の治兵衛。実事と和事、その幅の広さが、そのまま先代吉田玉男の芸域である。先代勘十郎の磊落にして繊細、玉男の知的な芸は一時代を画し、足遣い十年・左遣い二十五年、玉女はその技法・呼吸を息を詰めて学んだ。

 

「熊谷」では若き日の研修会で、玉男が左遣いを買って出たことがあるという。何という贅沢だろう。以前観たNHK「人間国宝ふたり」で、「時雨炬燵」ではないが師匠の「河庄」の治兵衛の稽古を、大道具裏からじっと「盗んで」いる玉女を撮っていて、芸の厳しさを思ったものだ。

 

ここ数年の補助金削減から住大夫・源大夫引退に至る文楽を襲った一連の大波の過程で、様々な新しい「試み」がなされてきた。それらの中には、正直「うーん…」と首をひねってしまうものもあるにはある。しかし、そこには一貫して「やらないよりは、やったほうがマシ」という技芸員の切迫した熱い「志」を感じる。

しかし、絶対揺らいではならないのは太夫三味線人形三業の芸の伝承の砦であり、新玉男にかけられた期待は大きい。

 

歌舞伎では、私にとって同世代の役者たちが相次いで去った。しかし文楽の場合、新玉男と勘十郎という盟友二人が若手から成長し、競い合い、今やともに文楽の屋台骨を支えていくさまを目の当たりに出きるのが本当に嬉しい。

古典芸能の楽しさは、演者が成長するにつれ、我々観客自身が成長することだからだ。

 

襲名とは、「吉田玉男」の名を玉女が自らに「襲ねる」ことであるが、決して師をなぞるだけではない。

齢還暦を過ぎた新玉男の「人間力」が舞台にどんな華を咲かせるか、目を見開いて見守りたい。

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なまえ
犬丸 治   いぬまる・おさむ
演劇評論家
 1959年東京生れ。慶應義塾経済学部卒。
「テアトロ」「読売新聞」に歌舞伎評掲載。歌舞伎学会運営委員。著書「市川海老蔵」「歌舞伎と天皇 『菅原伝授手習鑑』精読」(いずれも岩波現代文庫)ほか。


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