冥途の飛脚

2015年1月24日更新

 

 

 

『冥途の飛脚』(めいどのひきゃく) 世話物

A4オモテ141016

淡路町の段・封印切の段

 

○ 主な登場人物

亀屋忠兵衛    梅川と馴染む飛脚問屋の主。

遊女梅川     忠兵衛に慕われる遊女。

丹波屋八右衛門  忠兵衛の親友。

 

○ あらすじ

大坂淡路町にある飛脚問屋、亀屋の主・忠兵衛は大和国新口村から来た養子で仕事に慣れると遊女遊びをするようになった。忠兵衛は新町の遊廓に勤める梅川という遊女と馴染みになり、毎夜のように梅川の元へ通った。

ところが梅川を身請け(雇い主に金を払い遊女の身を買い取ること)しようとする客が現れた。阻止するには忠兵衛が梅川を身請けするしかなかったが、それには大金の二百五十両(現在の価値で約三千万円)が必要だった。

手紙のほか現金の輸送も行う飛脚問屋は何百両という金を扱うものの、それはすべて客の金で忠兵衛の自由にはならない。焦った忠兵衛は友人の八右衛門の店、丹波屋に届ける為替金の五十両を身請けの手付けに使ってしまう。

金が届かないと怒鳴り込んできた八右衛門に忠兵衛は訳を話した。飛脚問 屋が客の金を使い込めば公金横領の罪で本来なら打ち首になるところ。しかし八右衛門の友情で忠兵衛は五十両の支払いを待ってもらうことに。

身を入れ替え仕事をしようと忠兵衛は客に届ける為替の金を懐に店を出た

が、足は自然と梅川のいる新町へ。金を届けなければと思いつつ、忠兵衛は恋に浮かれた「羽織落とし」の姿を見せ、再び梅川の店に来てしまう。

すると先客として八右衛門がいた。立ち聞きすると先の五十両使い込みの件など散々に忠兵衛の悪口を言っている。これは忠兵衛にもう金を使わせないよう皆に真実を話した八右衛門流の友情だったが、忠兵衛にはそれが判らない。

逆上した忠兵衛は女たちの前でいい格好を見せようと懐の金包みの封印を切ってしまう。公金横領の大罪で、もう後戻りは出来ない。身請けを喜んだ梅川も真実を知り、死を覚悟した二人は忠兵衛の故郷、大和国新口村へ向かう。

 

○ 作品のポイント

この近松の原作を元に『傾城恋飛脚』という作品が後に作られた。封印切の段のあと、大坂を逃れた梅川と忠兵衛の姿を描く「新口村の段」という場面があるが、現在、文楽で上演される「新口村の段」は原作でなく改作の方。

原作と改作、両者で一番異なるのは八右衛門の描かれ方で、原作の『冥途の飛脚』では男気のある好人物となっていた八右衛門が、改作では梅川を取り合う恋敵として描かれている。

改作の方が確かにわかりやすい展開。しかし作品の深さという点では圧倒的に近松の原作に軍配が上がる。忠兵衛の人間的な弱さを描き「ああいう男、今でもいるなあ」と思わせる真実味は、近松ならではと言えましょう。

 

( 了 )


なまえ
高木 秀樹   たかぎ・ひでき
文楽研究家。
文楽、歌舞伎の同時解説放送、イヤホンガイド解説者。
日本舞踊や歌舞伎公演などの制作にも携わる。NHK教育テレビ「文楽鑑賞入門」講師。歌舞伎・文楽の劇場中継、副音声解説担当。

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