「伊賀越道中双六」の魅力 「岡崎」を中心に⑦

2013年11月21日更新

 

2013年9月23日 犬丸治FBより転載

国立小劇場・文楽「伊賀越道中双六」はきょうが千穐楽。第八「岡崎」を続けます。
なぜか窮地を救ってくれた山田幸兵衛老人と、唐木政右衛門(と名は名乗りません)との改めての対面になります。

幸兵衛は「貴殿の柔術。正しく拙者が流儀に同じき真影の極意」と見極めます。
驚く政右衛門でしたが、お互い顔を見合すうち、幸兵衛は十数年前、政右衛門が庄太郎といったころ、伊勢山田で武術全般を教わった師匠「要(かなめ)」であることに気づきます。
「オオ、その詞で思ひ出したハハハハハ」
「成程々々。しからばあなたが」
「その方が。ヤ、これはハハハ」
「これは」。
幸兵衛にとって、山田の神職・荒木田宮内の息子で孤児だった庄太郎は掌中の珠でした。
「一を聞いて十を知る、頓知といい器用といい、十五以下にて槍術、剣術、鎖鎌、体術、柔に至るまで、諸歴々の弟子を追抜き、真影の奥義を極むる無双の達人」という天才少年。仕官させようと見込んだ幸兵衛でしたが、庄太郎は突然家出してしまいます。

「一派に心を凝らさんより、諸流に渡り修行をなすこそ、この道の心がけとの御教訓。心魂に染み渡り十五歳にて国を出で、普く諸国を遍歴し、武術を磨く武者修行」と政右衛門は言い訳しますが、彼は和田行家が見込んで仕官させようとしたときも、師の娘お谷と関係を持って出奔しています。
「放浪癖」というか、「旅」がこの人も人生なのでしょう
同時に、よりによってこの雪の岡崎の一軒家で師弟が十五年ぶりに再会するのも「旅」ゆえです。

ここに、老母も出て来て、言葉を添えます。
お前も知る娘お袖の許婚が敵と狙われている。庄太郎、腕を見込んで助太刀してくれまいか。
「ムウ、シテその付け狙う敵の仮名は」
「オオ、婿というは上杉の家来、沢井股五郎という侍。付け狙うは和田志津馬」。
何たる運命のいたずらか。
「が、ここに一つの難儀というはきやつが姉婿、唐木政右衛門という奴。音に聞こえし武術の達人。たとえ五十人百人加勢ありとて政右衛門にはヤヽヽ及ばぬ、及ばぬ」。
互角に戦えるのは庄太郎しかない、というのです。夫婦は政右衛門が庄太郎とは露ほども知りません。
政右衛門は「如何にも助太刀仕ろう。ササこの上は沢井殿の隠れ家へ御案内」と、せき立ちます。それを葛篭から窺う眼八。
幸兵衛は気づいて、サラリと話題を変えるところへ、庄屋から呼び出しがあり、幸兵衛は眼八が忍んでいる葛篭に錠をしっかりかけて、出かけていきます。

豊竹山城少掾は、「岡崎」の切を便宜上三段に分けるとすると、この最初の部分、幸兵衛が出かけるまでが一番難しい、といいます。
幸兵衛の気骨と政右衛門の器量を太い輪郭で語り、師弟再会で要・庄太郎の昔に戻る情愛、それでいて、かつての大恩ある育ての親がよりによって敵方になってしまった皮肉、今の境遇を偽らねばならない政右衛門のハラが至難なのでしょう。

 

 


なまえ
犬丸 治   いぬまる・おさむ
演劇評論家
 1959年東京生れ。慶應義塾経済学部卒。
「テアトロ」「読売新聞」に歌舞伎評掲載。歌舞伎学会運営委員。著書「市川海老蔵」「歌舞伎と天皇 『菅原伝授手習鑑』精読」(いずれも岩波現代文庫)ほか。


技芸員インタビュー
六世鶴澤燕三師匠に聞く床コン
2013年12月に第一回の床だけコンサート(床コン)が行われ、その後、燕三師匠のご病気もあり9月19日(火)に4年ぶりの開催が決...

続きを読む

犬丸治のコラム
新・玉男襲名に寄せて
吉田玉女が、まさに「満を持して」師の名跡「吉田玉男」の二代目を襲名する。玉女から玉男へ。師が「早く男になるように」とつけた芸名の...

続きを読む

高木秀樹の耳より文楽
玉藻前曦袂
玉藻前曦袂(たまものまえ・あさひのたもと)この物語は全五段の構成で、まず天竺・インドから始まり、そして次が唐土・中国、さらに舞台...

続きを読む

公演案内

公演案内一覧へ

イベント案内

イベント案内一覧へ

  • 観る 文楽を観劇できる会場へのご案内
  • 学ぶ 文楽に関連する他のサイトのご案内
PR

PR

PR